異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2009-03-15

「なるほど。」

ペリグから聞いた事情に加えて、ペリグ一味が船乗りとして惜しいというオレの所見も併せて伝えると、カスパルは思案顔で頷いた。

「単純に同情したなら賛成しかねますが。」

そう前置きした上で続ける。

「船乗り自体は別に足りないわけじゃありません。トリムにやってくる船はかなり多いですし、その船員はきちんと充足しています。」

「うーん、そうか。そうなると技術があるから助命してくれって論法は通用しないか。」

思わず苦い声を出してしまう。

言うまでもないことだが、物の価値というのは結局のところ需要があるかどうかによって決まってくる。いかに手練の船長だとオレが主張してみても、買い手である雇い主が欲しがらないことには交渉のネタとしては使えない。

「いえ、早合点しないでください、セタンタ様。」

オレの思考にカスパルは待ったをかけた。

「トリム港に入港する船のうち、何隻が影の島の船かご存じですか。」

「んー。数は分からないけど、その口ぶりだと思ったより少ないのかな。」

「ええ。影の島全体で所有している外洋船は13隻です。それ以外は全て他国の商人が船主です。もっとも、他国から来てタラに住み着いている船主もいますが。」

「ほうほう。」

カスパルはその辺の事情を掻い摘んで話してくれた。

エリン族を始め、影の島の諸族は元々余り交易に重きを置いていなかった。船も漁に使う小舟が主で、大型の外洋船はもともと一隻もなかったのだという。

それでは大陸の各国と繋がりが薄れ、文物が入ってこなくなると考えたスカアハが、本格的な港湾としてトリムを啓いたのだが、他国からの商人は競って現れたが、それに対抗できるだけの貿易商は全く育たなかったらしい。結局、スカアハが個人で新大陸と行き来させている大型船の他は、他国から買ったり傭船して使っているものがほとんどで、影の島自体に独自の航海技術や運用技術はまだまだ根付いているとは言い難いのだとか。

「ですから、まだ若く、それでいて経験が豊富な船長というのは非常に貴重なのは変わりませんよ。スカアハ様ならその価値は誰よりご存じでしょう。」

だから、助命嘆願が聞き入れられる可能性は僅かなりともあるだろう、というのがカスパルの意見らしい。

「なら、案外スンナリ行きそうかな。」

楽観して聞き返すと、そう簡単にいけばいいのですがと、カスパルは口許を歪めて苦笑した。

「問題は、スカアハ様が法の運用にはたいへん慎重で、たいへん厳格な方であると言うことです。」

スカアハは普通の訴訟なら判事に法の運用を任せており、多少寛大な判決が出てもそれを良しとしていたらしい。しかし、種族間の問題や外交に関わる重大な事件は直接裁定し、かなり厳密な判決を出すという。

「つまり、今回の事件はスカアハが直接裁くというのが一番の問題なのか?」

「いえ、逆に女神様が直接ご裁決くださる方が状況はいいと言えるでしょう。というのも、慣習的に判事達は、減刑は二等までとしています。そして、奴隷売買を目的とした誘拐は磔刑が常道です。」

「えーと、磔の下は晒し首だっけ? んで、その下は……」

「斬首刑です。その下が絞首刑で、死刑でなくなるのはその下の終身労働からです。命を助けようとしたら、さらに二等は罪を免じないとダメなんですよ。」

うへぇ。思わず溜め息が漏れる。

「要するに、普通の裁判にかけたら、少なくともペリグはどうやっても死罪にしかならないわけね。」

「そうなります。ですから、必要とあれば法を外れることも辞さない女神様の裁定の方がありがたいわけです。ですが、女神様は可能な限り法を曲げずに罪を裁こうとされるでしょう……」

その理由は言われずとも推測できる。法を定めた当人が濫りに法を破っていたら示しがつかないし、公正さを示しておかなければ為政者として不信を抱かれかねない。

「つまりは、どうやってスカアハに『ペリグを生かしておくことが必要だ』と認めてもらうか、そして法を曲げても納得するだけの理由を提供してやらないとダメって事になるな。」

「並大抵の事じゃありませんよ?」

オレの回答に、カスパルは苦笑を深くした。