異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2009-03-21

カスパルさんと、スカアハが裁いた事件の過去の判例がどうたらとか、協力者になりそうなのは誰かとか喋り込んでいるうちに、夕日は西の山陰へと沈み始めていた。

「こら」

声に視線を上げると、土埃と汗にまみれた女丈夫が二人、ご立腹の様子でこちらを見下ろしていた。

茜色の夏の夕日を背にした二人は、なにやら咎めるような表情ではあるものの、どこか晴れ晴れとした雰囲気も纏っていた。特にフィオナは、娘装束を身につけている時と較べて明らかに溌剌とした精気を感じさせる。ここしばらく体を動かせなかったと言っていたから、きっと不満やら鬱屈やらを溜め込んでいたに違いない。ホーサと二人、汗を手拭いで拭いている姿は、スカアハの館で見慣れた景色そのままだ。やはり、お姫様然とした美しさよりも、猛々しい女騎士としての野生美の方がフィオナの本質なのではあるまいか。

ホーサの方も、フィオナと事情は異なるが、やはり体を動かしている方が『らしく』見える。宴席や公式の場で着飾った姿もなかなか清楚で可憐だが、修練や馬上で見せる鋭い体裁きには、思わず視線を奪われる魅力がある。

オレ自身の女性の好みでいけば、どちらかというと優しく包容力のある年上の女性や、嫋やかなか弱い女性の方が気になるのだが、凛々しい女戦士というのもなかなかどうして絵になるもんである。

などと見惚れていると。

「どうしたセタンタ。ニヤけた顔をして。」

フィオナに呆れた声を出されてしまった。

「ん、ああ。やっぱ二人とも、着飾ってる時も美人でいいけど、修練で汗を流してる時の方が格好良くて綺麗だなと思ってただけだよ。」

「な、……ええ!?」

マヌケな顔を見られたと苦笑しながらストレートに思ったこととを口にすると、フィオナは急に狼狽えて、慌てて胸元や服の裾の乱れを直し始めた。確かに、さっきまで乱取りをしてたから服が多少着崩れているし、汗の浮いた肌が所々綻び出て見えるけど……

「いや別に、肌が見えてるからとかそういうことではなくて……」

セタンタ。目がいやらしい。」

えー。ホーサにまで、身繕いされつつ窘められてしまった。

「そういうのはなぁ。そうやって意識するようなことを言うから、妙に艶めかしく見えるんであってな。大体、二人ともオレにとっちゃ妹みたいなもんなんだから、いちいちそんな目で見ないっての、まったく。」

憤慨して言い返すが時既に遅し。

「な、艶めかしいとか、色魔のようなことを言うな!」

渡り神は妹とでも結婚する。」

「二人とも誤解するなって!オレは純粋に二人とも生き生きしていて良いなってことをだな……」

などと、どんどん会話が収集つかなくなる。

パン、パン。

そこへ、大きく手を叩く音が響いた。横を見やると苦笑したパスカルの顔。

「エマ。ジュードーのことでなにかセタンタ様にお聞きしたかったのではないのか。」

「あ、そうでした。私たちを放り出して兄上と話し込んでいる様子だったので、師匠としてそれはけしからんと思いまして。」

どうやら、そっちのけで相談してたのがお気に召さなかったらしい。

「一応、怪我しそうなことをやらないか、ちゃんと見てたよ。」

「そう?ならいいんだけど。」

疑わしげなホーサ嬢。フィオナにはフンと鼻で笑われた。

「最初に技を指南したあと、ほとんど何もしなかっただろうに。」

自由にやらせすぎたせいで、教育者としての腕前を疑われたようである。

「そうは言うけどなぁ。二人とも、驚くぐらい筋がいいんだよ。きっと、他の武器や実際の戦いの経験があるせいだと思うけど。」

「では、もうジュードーはおしまいか?」

つまらなそうに口を尖らせる女騎士。どうやら、当初の態度と違って面白くなってきたらしい

「うーん。まだまだ技術としてはいろいろあるんだけど、あとは土の上じゃなくてもう少し柔らかい場所じゃないと、練習するのが危ないからね。」

スカアハのところに帰ったら、練習場を用意できないか相談してみる。それまでは時々技術を教えると言うことで納得してもらえた。