異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2009-03-22

「それで、何の話をしていたんですか、兄上。」

厚手の垂れ幕の向こうから、フィオナの張りのある声がする。それと一緒に衣擦れと水の音。

何をしているかといえば、先ほど汗や土まみれになってしまったので、夕食へと行く前に体を拭いているわけである。

修練場のすぐ横には水を使えるちょっとした浴場みたいな場所があって、そこで身支度を調えている。冷水ではあるが水も引き込んであり水浴びすることも出来る。ただ、もともと男性しか使わない前提の場所ではあるので、部屋に間仕切りなんて全く存在しない。そんなわけで、臨時の垂れ幕を貼ってもらって仲良く男女に分けて使っているわけである。

「うん。あれはなぁ。」

諸肌脱ぎになった上半身を湯で絞った手拭いで拭きながら、カスパルさんが答える。城代と言えば一応武官の端くれですからなと、さっき柔道の真似事をしている時に言っていたのを思い出す。確かに、赤枝の騎士連中ほどではないものの良く鍛えられた体である。日に焼けた腕には所々細かな傷の跡もあったりして、この気さくな人物も、荒事の多いこの世界の戦士なのだと認識させてくれる。

妹の問いかけにどう答えるか、オレに目配せしてくるカスパルさん。頷き返すと、海賊一味の助命について掻い摘んで返答する。

「その話、私はやはり賛成しかねます。」

フィオナからは、やはり納得いかないのか不愉快そうな応えが返ってくる。高めに作られた石の天井に反響したその声は、先ほどホーサとやり合った時よりは多少語気が低い。

まぁ仕方ないだろう。確かに、ペリグ一党を救うことが正義か否かといえば、胸を張って正義とは言えないだろう。我知らず、頭を抱えてしまう。

「エマ。そう言わず手を貸してくれないか。この一件には、セタンタ様の男との面子がかかってるんだ。」

オレがビミョーな表情をしたせいなのか。カスパルさんは突然そんなことを言い始めた。

「なっ……」

勝手な台詞に抗議しようとしたところを、手で制止されてしまった。口許の仕草で、任せておけと合図してくる。

なんか、非常に不安なんだが。

しかしながら、曲がりなりにも実の兄である。オレよりは遥かにフィオナの扱いには長けているはずだ。

しばらく躊躇しているような沈黙があったあと、フィオナの溜め息が返ってくる。

「子供を掠うような奴の弁護など願い下げですが、セタンタが手を貸してくれと言うのなら。やむを得ません。」

いったいどんな殺し文句が聞いたのか分からないが、頑なだったフィオナがこの兄貴の一言で渋々とは言え折れてくれるとは。

思わず視線をやると、笑顔で自分の胸を叩くカスパル兄貴。

「一言かけてやってくださいよ。」

そう囁くのに、当たり前だと頷き返す。

フィオナ、ありがとう。オレにはここで頼れる相手があまり居ないからな。お前に反対されてしまうとどうしたらいいか分からなくなってしまう。みんなが納得いく結果にしてみせるから、どうか力を貸してくれ。」

「……私とお前は兄妹だからな。家族が困った時に助けてやるのは当たり前のことだ。」

顔を見合わせながらだとお互い言いにくい言葉なので、偶然とはいえオレ達の間に引かれた幕がありがたい。

「ははっ!頼りにしてるぜ。」

この一件で、フィオナとの関係に変なしこりが残ってはイヤだとおもっていたので、ほっとして胸をなで下ろす。すると、幕の一部が動いて、小柄な人影がこちらを覗き込んだ。

セタンタ、私は?」

唇を尖らせたホーサは、珍しく子供っぽい様子で問い掛けてきた。

「もちろん、ホーサも宛てにしてるさ。あの晩オレと一緒にいたのは、ホーサマウルさんだろう。ホーサにも協力してもらわないと絶対上手くいかないよ。」

「……ならいい。」

そう頷いたホーサは、ぎくりとそのまま首を止めた。視線を固定したままみるみる頬を赤く染める。その視線を辿ると、オレの下腹に。

ああ、そういや。今丁度下着を着替えようとしていたところでした。

「いやん」

「きゃぁ!」

悪いけどホーサ。悲鳴を上げるのはオレの方じゃないだろうか。