異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2009-04-26

セタンタがそこまで言うなら。」

と、なんだか要領得ない調子のフィオナ。その顔を見るに、根回しとか調整とかそういうのが無駄に見えるのか。それとも、卑怯とは言わないまでも保身的でせこいとでも思っているのだろうか。

まぁ、せこいのは否定しないけど、ホウレンソウってのは意外と大事なのだ。これをやっておかないと、うまくいったときに手柄取り上げられたりだとか、しくじったときのフォローが効かないだとかいろいろデメリットがある。

それに何より、関わる人間が納得してるかしてないかで、得られた結果の評価や満足度が変わってくる。これからオレがやることにもできれば納得ずくで協力してもらいたいし、もしかしたらこっちが見落としていることを指摘してくれたり、もっといいアイディアを聞けるかも知れない。報告・連絡・相談は結局自分のためにやることだったりする。

そんなことを説明してやると、フィオナも最後には「そんなものか」と思ってくれたようである。


んで、フィオナと分かれて館の廊下を歩くこと数分。

コノーアさんの執務室は、公務を行う部屋が城内の政庁舎にあるほか、この城に起居する

人の私室が入っている居館にもある。ちなみに、場外の市庁舎にも執務室があるそうだ。来客や用向きにあわせて使う場所を変えてるそうであるが、これから向かう場所はその中でも一番プライベートな執務スペースである。感覚的には、私室にお邪魔するのとほとんど変わらない。

渡り廊下を渡ったときに確認したが、部屋の窓からは屋内の明かりが漏れていたから、まだ仕事の真っ最中だろうと思われる。部屋の扉をノックすると、中から応答の声がする。

「誰か!」

低く幾分しわがれた声は、渋く深みのあるコノーアさんの声ではない。

「夜分遅くに済みません。セタンタですが、コノーアさんはいらっしゃいますか。」

「……セタンタ様? ただいま開けます。」

わずかに慌てた声が返ってくる。

開いた扉の向こうにいたのは、落ち着いた40がらみの紳士。生真面目そうで少し神経質にも見える人物だった。

確か、赤枝の騎士で副団長の"鉄拳"ルーイ、さんだったかな。

ここ数日、立て続けにいろんな人に会っているので名前と顔がなかなか一致しないが、とりあえず一度紹介された顔であることは間違いない。

「いかがされましたかな。何か事件でも。」

もともと鷹のように厳めしい顔つきをさらに険しくさせる"鉄拳"さん。緊張していないときは少しまじめそうな紳士だが、緊張度が増すと途端にすごく怖そうな顔になる。幸い、オレの方が背は上だから、そういう意味では威圧されたりしないが、なかなか迫力がある表情である。

「いえ、ただ単にコノーアさんにちょっとした相談があっただけですよ。」

「では、私は一度出直してきましょう。」

そう言って、素早く室内にとって返し机の上のやら何やらをまとめ始める"鉄拳"さん。

「ん、どうした? おや、セタンタ様。」

その向こうでは、卓上に大きく広げた地図らしきから顔を上げたコノーアさんが、戸惑った体でこちらを見ていた。さっと見るに、タラの市街図のようだ。ということは、スカアハが来たときの警備体制の相談をしていたのだろう。きっと、重要な話だったに違いない。

「あ、待った!待ってください。」

「どうかされましたか?」

羊皮紙の束を挟みにまとめて突っ込もうとしたルーイさんを慌てて制止する。

「オレの相談ってのは、そんなに急ぎの話じゃありませんので。今は大事な話をされてるみたいですし、わざわざ中断させるのも忍びない。明日にでもコノーアさんに少し時間をとってもらえれば、それでかまいません。」

「ですが、それでは失礼に」

「いや、お気遣い無用。ほんとマジで。」

オレとルーイさんが互いに遠慮の押し問答していると、コノーアさんから苦笑があがった。

「ルーイ、セタンタ様もこう仰ってくださっているんだ。続けさせてもらおう。セタンタ様、申し訳ありませんが、明日の昼過ぎにお話を伺ってもよろしいでしょうか。」

申し訳なさそうでありつつも、本気で忙しそうな様子で仰るコノーアさん。考えてみれば、スカアハが来るまであと4日、準備期間としては正味3日しかないわけで、暇なわけもないのであった。

「なるべく手短に済ませますんで。明日お願いします。どうか気にせず続けてください。」

ルーイさんにもにっこり笑いかけてから、邪魔にならないようにさっと部屋を後にする。

もしかしたら、スカアハが来てから話を振ることなるかも知れないな。