異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2009-06-28

「話と言っても、単純にさっきお話ししましたとおりなのですが。」

「『赤枝の騎士またはエリンの族長ならば、罪人を観察猶予処分として労働させることが出来る。』というのがルール?」

オレの問いかけに、ポーは首をかしげながら答える。

「んー。正確には、『判事の同意を得ることで』『罪状の減免に合わせた期間』の労働を課すことが出来る。ですね。」

「なるほど。」

どうやら、それなりにきちんとした手続きを必要とする措置らしい。ただ、それにしてもこの措置は運用上かなり怪しい手法なのではないかという気がする。

司法取引の類がもともとかなり恣意性が高く、政治的な目的達成のために使われた場合権力の濫用になりがち、というのは言うまでもないことだろう。

この場合、この措置を行えるのが赤枝の騎士とエリンの族長に限るとしているのは、なるべく悪用されるのを防ぐための制限と考えて間違いないだろう。

「それで、もし仮にペリグ以下の山賊をこの方法で手下として使うとして。誰が担当者になるの?」

「……セタンタ様でよろしいのでは?」

なに言ってんですか、といった様子で首をかしげる。

「いや、駄目だろ。オレは赤枝の騎士でもエリンの族長でもないんだから。」

「え? ……ああ。そういわれればそうですけど。」

なんだか釈然としない表情でこちらを見るポー。イマイチ話がかみ合ってないな。

「一応確認するけど、渡り神だからって法の適用外じゃないよな? たとえば、オレがなにか悪さをやらかして捕まった場合でも、法の適用はされるわけでしょ。この場合も、赤枝の騎士じゃないしエリンの族長でもないオレが、この猶予措置をやるわけにはいかんだろう。」

そういうと、ポーとカテナシウスさんは互いに顔を見合わせた。

「仰るとおり、法の中には渡り神を例外とするとは書いておりません。異邦人であろうと異種族であろうと、法の適用を受けると記されています。」

カテナシウスさんが重々しく言うと、そのあとをポーが引き受けた。

「ですが、渡り神が悪事を働いたとして。我々が取り押さえたり討ち取るってのはなかなか難しいですよ、正直なところ。」

「そりゃまぁ。オレ程度ならともかく、オーディンのオッサンやヌァザさんレベルだと、なかなか太刀打ちできるもんじゃないだろうな。」

下手すると、千人単位で掛かっても言いようにあしらわれかねん。特にヌァザさんは本気で強そうだ。

「我々程度でそんな本物の神様にかなうわけないじゃないですか! それにセタンタ様だって十分雲の上です!」

オレの発言に、ポーは悲鳴を上げた。

「でも、武術ならオレより赤枝の騎士の方が遙かに強いだろうに。」

セタンタ様には光の魔術がありますからね。」

と言って、壁に立てかけてある木槍を指す。ノゾミは視線を感じたのだろう、槍から放たれる明かりがゆっくりとその強さを増す。

「あんまり明るくすると眩しいから、そのぐらいでやめとけよー。」

軽く拗ねたような思考が返ってきて、槍の明かりは幾分控えめになった。

マウル師匠にも伺いましたが、あの槍と魔術がある限りセタンタ様に挑戦するのは無謀もいいところです。」

槍を見ながらため息をついてポーが言う。どうやら、オレの実力はいささか過大評価されているようだ。まぁ、変に頼りにされたりしなければ特別困ることもないからいいんだけど。

「話を戻そうか。で、渡り神なら特例でその猶予措置を執ることが出来る、ってことなの?」

「そのところは、判事に確認してみましょう。」

カテナシウスさんが、不機嫌そうに言う。どうやら、ペリグたちに猶予措置を適用してまで手下として使うという考え方が気に入らないらしい。いや、もしかすると赤枝の騎士でもない素人に、渡り神と言うだけで権限が与えられることに腹が立っているのかも知れない。

とはいえ、どこかそそっかしそうなポーよりもカテナシウスさんの方が頼りがいがありそうだ。

「では、申し訳ないんですがなるべく早めに確認して回答をもらえませんか。よろしくお願いします。」

「わかりました。お任せください。」

手をついて頭を下げると、二人とも慌てたように請け合った。