異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2009-07-11

騎士二人の意見は別途参考にするとして、ひとまず手をコノーアさんに渡してしまおう。

「大族長殿は今どこにいるんだっけ。」

「先ほど執務室で市長と会談に入ったところですよ。」

カスパルさんに聞いてみるが、今すぐお邪魔するわけにもいかないようだ。

「すみませんけど、これ、コノーアさんに渡してもらえませんか。」

羊皮紙をくるりと丸めて近くに控えていた女中さんに差し出す。

「い、え、そのっ」

女中さんはどっきりした顔でオレを見返す。何かまずかっただろうか。

「私どもが誤って中を覗き見するようなことになっては、あとで問題になります!」

「あ、そう? どうしたらいい?」

「蝋をお持ちしますので、どうか封印をしてくださいませ。」

慌ただしく女中さんが指示すると、程なく赤く太い蝋燭が運ばれてきた。

をきちんと丸めて女中さんに渡し、合わせ目に封蝋を垂らす。

セタンタ様、印章を押してくださいませ。」

恭しく差し出される書状を前に、よく考えたら印章なんてそんな立派なものは持ってないことに気づく。

「んー、そういや。印なんて持ってなかったな。」

周りを見回すと、カスパルが右手の薬指にそれらしき刻印のある指輪をはめていた。カリオス○ロ伯爵の指輪みたいなヤツ。

「持ち合わせがないんで、ちょっとそれ貸してくれませんか。」

尋ねてみるとまたまた慌てた表情を返された。

「いや、お言葉ですが。印章は重要なものですので、お貸しするわけには。差出人が私になってしまったらまずいでしょう。」

「それもそうか。」

感覚的には実印を押すみたいなもんなのかね。

「そしたらどーすっか……」

セタンタ、その短剣の柄頭。」

と、ホーサが助言してくれた。指さしている先を見ると、オレの腰に差した短剣。ヌァザさんにいただいたエヴェントだ。

鞘ごと引き抜いて柄を見ると、確かに柄頭の先端に複雑な文様が刻まれていて、大きさも指輪の印章より一回り大きいくらいの円形になっている。文様はよく見ると、遠吠えしている犬を横から捕らえたシルエットになっていた。どこかで見たような模様だ、と思いついて胸元から護符を取り出す。細かい部分は違うけど、『横を向いた遠吠えする犬』という意匠はほぼ一緒だった。

「これ、偶然かな。」

「いえ、違うわ。」

しげしげと両者を眺めていると、ホーサが微笑みつつ指摘した。

渡り神はみんな、自分の意匠を持っているわ。」

そう言って腰のベルトから飾り紐を抜き出して見せた。この紐は、ホーサが普段剣帯代わりに剣を吊しているものだ。渋い茶色の目の細かい紐で、その途中に留め具として翡翠らしき緑色の玉が付けてある。よく見るとその玉には銀の精巧な象眼が施されていた。

疾走する裸馬とそれに跨る騎手。馬上で弓を引き絞る長髪の女性は、どこかホーサに似ていた。

「これは母様の意匠で、私と兄も同じ意匠を使っているの。」

「家紋とか旗印みたいな感じ?」

「旗印にすることもあるわ。でも、印章としての役割の方が重要なの。渡り神の意匠は権威の証でもあるから。」

どうも、扱い的には実印と言うよりも国璽とかに近いような気がしてきた。

「しっかし、オレの意匠って誰が決めたんだろう。まぁ、犬好きだからいいけど。」

蝋をもう一度垂らして貰って、そこに短剣の柄頭を押しつける。あまり押しつけすぎないようにしてさっと離すと、そこにはくっきりと犬の意匠が刻まれていた。

「これでいいかな?」

「ええ、十分です。では、間違いなく父に渡すように頼んだよ。」

「確かに承りました。では、失礼いたします。」

女中さんがバカ丁寧に手を押し戴いて下がっていく。そこまで畏まらなくてもいいんだけどなぁ。