異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2009-11-05

一応の計画として、例のペリグ一味の件でスカアハがくる前にできることは何でもしておこうと思っているが、昨日のうちに大体の当たりはつけてしまったのでやることがない。

……いや、もう一つあったか。

司法や行政側の人とは会って話を聞いたし、加害者の事情は聞いたけど、よく考えてみれば被害者から詳しい話を聞いていない。もちろん、例のワーウルフ村長やベルナーからは一通りの話を聞いたが、実際にペリグに捕まっていた者や、身内を掠われた家族にも話を聞いてみるべきだろう。そうでなければ片手落ちもいいところだ。

しかし、被害者の身内なんて自分で探し出せるわけもないので、まずは赤枝の騎士を誰か捕まえて話を聞けそうな心当たりがいないか訊ねてみるべきだろうか。

給仕をしてくれていた女中さんにお礼を言って、騎士団の出丸へ向かう。ノゾミ君に頼んで短くして貰った槍を手にして城の本館から出ようとすると、慌てた様子の衛士に呼び止められた。

セタンタ様!?」

「うん? どうかしましたか。」

年嵩の、たぶん40過ぎの豊かなヒゲを蓄えた衛士は、オレを前にしてなにやら困惑した表情で膝を折り、目の前に跪いた。

「どこかへお出かけでしょうか。供のお方がどなたもいらっしゃらないようでしたので、不躾とは思いましたがお声をお掛け致しました。」

うーん。流石に首都のお城というか宮殿にもなると、衛兵一人とっても態度が慇懃で隙がない。でも、できればこういう大仰なのはやめていただきたい。オレがびびるから。

「あー、いやね。ちょっと赤枝の騎士の詰め所へ行こうと思っただけだから心配いりませんよ。」

「いえ。城内とは言えども、セタンタ様ほどの貴人が供も連れずにお歩きにあるのはよくありません。」

と、親切丁寧だが断固たる口調で言う。

うへぇ。これはまたちょっと謹厳実直というか、実に頑固そうなおっちゃんである。

こういう生真面目そうな人は嫌いではないが、今日みたいに思いつきで行動してる時にはあまり一緒に来て欲しくない。なんかグダグダな展開になりそうなので。

そんなわけで先手を打つ。

「それなんですが、一つお願いしたい事があります。頼めますか。」

オレが尋ねると、実直そうな衛士は頭を上げて肯いた。

「オレは所用で赤枝の騎士の詰め所へ行くので、フィオナ……エマとホーサ、それからカスパルさんに伝えておいてもらえませんか。昼には戻るつもりです、と。」

「畏まりました。」

「それと立ち上がって下さい。今度から膝は付かなくて良いですから。」

「いえ、ですが……」

「あなたは……ええと、」

「ウムラクと申します。」

そう名乗った衛士の腕をとって立ち上がらせる。

「ウムラクさん。あなたの仕事はこの城のを守ることだ。いちいちオレと話す度に跪いていたら、何かあったとき咄嗟に動けない。それじゃ主客逆転もいいところだ。ちがいますか。」

「それは確かに仰るとおりですが。」

「ですんで、無用の礼は無しにしましょう。では、オレは出かけますから後は頼みますよ、ウムラクさん。」

「はっ、お任せ下さい。」

ウムラク氏の腕を軽く叩いて目配せすると、律義なおっちゃんは拳で胸を叩いて応えた。

笑って手を振りつつさっさと城壁へ、赤枝の騎士団が屯する出丸の方へと向かう。

ボヤボヤしていて、お付きの人とか呼ばれても困るしね。

それにしても、我ながら無駄な対人スキルが磨かれて来つつある気がする。こういう誤魔化しが上手くなるのを、『スレる』って言うのかねえ。

……単純に口先ばかり回るようになってるような気がしないでもない。