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昨日、ロイグとコルマクに連れられて辿った道筋を思い出しつつ、赤枝の騎士が詰める三角砦に向かう。
タイコンデロガ城はタラの街と結びついた城塞都市であり、同時に聖山タラの麓を利用した平山城である。だから、城館の本館から北西方向の山裾を守る三角砦までは結構な距離がある。
幸い、途中何度か出くわした人に道を尋ねる事ができたので、迷うことはなかったが、建物の廊下と屋根付きの通廊と山をくり抜いた地下道が組み合わさった経路は、はっきり言ってそう簡単に憶えられるものではない。
どうせなら館内案内図でもつけといてくれればいいのにと思ったが、考え直す。これだけ複雑になってるのは、城の防御機構としてわざと分かりにくくしているに違いない。案内板を貼り付けるのは本末転倒だろう。
もっとも、途中で出会った城仕えの人々が皆、道を訊くオレの質問に口を揃えて『迷うのは無理もありません』と答える以上、利便性は相当損なわれていそうだけど。あと、地下道の暗がりでオレに出くわした誰も彼もが『ぎゃっ』だの『うわっ』だの悲鳴を上げるのは最初悲しかったけど、慣れてくると段々楽しくなってきたのは我ながらどうかと思う。
一人で半ば城内探検のようにして三角砦までやってくると、砦の入り口で衛兵に止められた。
「三角砦にようこそ。御名と御用向きをお聞かせいただきたい。」
態度は慇懃だが言葉は無礼でない程度に堅苦しい。見るに、歳は二十代前半だろうか。気合いの入った直立ぶりと、いかにも生真面目そうな顔つきが、彼のやる気を分かりやすく表している。
「セタンタと言いますが、マウルさんかロイグ……それかコルマクいませんか。」
「承った。伝えをやるのでそのままお待ちを。」
そういうと若い衛士は下人らしき人に用向きを伝えて奥へ行かせた。その間、オレを招き入れる様子はない。
なんかこう、門番の応対としては正しいやり方ではあるんだけど、オレの地位とかを知っていればまずあり得ない対応である。オレの名前を知らない、という可能性は残念ながらまず無いと思われる。過大広告もいいところの尾ひれに背びれに足まで生えたうわさ話が走りまくっているので、タラにいる限りはオレのバカバカしい"勇名"を知らずに居られないだろう。となると、恐ろしく杓子定規というか糞真面目な人だということになる。あるいは反骨精神旺盛な天の邪鬼なのかも知れないが、とにかくこの応対はなかなか新鮮である。
そうして待ちぼうけすること10分ほど。
漸く奥から誰かの足音と大きな話し声が近づいてきた。
「渡り神が供も案内役も無しに来るわけがないだろう。大方セタンタ様の名を騙る悪戯者に決まっている。この程度のことでわざわざこの私を呼び出すとは、本当に融通の利かない奴だ。さっさと追い返せばいいのだ。」
どうやら、呼ばれてきたのもまた若い男のようだが、こちらはなにやらキンキンとした金切り声で捲し立てている。目の前で寡黙に立っている衛士とは正反対のタイプのようだ。
「なんだお前は。セタンタ様の使いか何かか。」
オレの前に立ったその男は開口一番こう言い放った。
年齢的には16~18くらいだろうから辛うじて少年ではない程度だが、まだ一人前の男というには足りない感じだ。だが、少なくとも度胸だけは一人前のようで、身長が5フィート少々と小さい青年と6フィートを超えるオレとの間には驚くほどの体格差があるのだが、それを恐れもせず下から睨み上げてくる。
紹介された赤枝の騎士には見なかった顔だし、雰囲気的にも赤枝の騎士達に感じる"凄み"のようなものは感じない。騎士のうち誰かの息子か何かだろうか。