異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2009-11-14

「いやその。セタンタ本人ですが何か。」

オレをセタンタ本人だと知らない、というか、まさか本人がいきなり来るとは全く予想していなかったようだ。

オレがそう名乗ると、青年はオレの頭の先からつま先までマジマジと見回した。

よく見ると青年はすごく整った顔立ちで、線の細い輪郭と吊り上げ気味の猫目が少し女性っぽくて、全体的になにこのイケメンって感じである。髪を散切りに短くしているから男だと分かるが、それっぽく装えば女性にも見えるだろう。

青年は、最初不躾で尊大な視線だったのが、表情が次第に渋面に変わり、最後には苦虫虫をかみつぶしたような顔つきで膝を折った。

セタンタ様とは気付かずに、大変なご無礼を致しました。」

声音の方もひどく硬い。どうやら何が原因かは分からないが、このにーちゃんの機嫌を損ねてしまったようだ。まぁなんでもいいけど。

「べつに構わないよ。どっちかというとそういう堅苦しい方が苦手だから、大仰なのはやめてくれないかな。」

苦笑しながら立ち上がるように促すと、青年は仏頂面で跪くのをやめた。

「無礼ついでに申し上げますが、先触れや供も付けずに出歩くのは感心致しません。是非御身の安全にお気遣い下さい。」

睨み上げてくる視線には、強い苛立ちが現れていた。顔にでやすい、という言葉があるが、彼の場合この言葉が文字通り当てはまる。

オレに対して対応を間違えた失敗に対する苛立ち。

オレが供も付けずにふらりと現れた事への腹立ち。

あるいはこんな間の悪い展開に巻き込まれた憤懣もあるだろうか。

ともあれ、立場的に怒りをぶつけては不味い相手にこういう態度が出てしまうのは、正義感なのか自制心の無さなのか。どっちにしろ若いなと思ってしまう。

いやまぁ、今のオレも人の迷惑顧みず勝手気まましている段階で十分若いけどね。若いというかバカというか傍迷惑というか。

「すまないね。あんまり大勢で仰々しくやるのは好きじゃないんだ。」

オレが苦笑を返すと、目の前の青年の眉が更につり上がった。

「是非周囲の迷惑もお考え下さい……いえ、私は迷惑などと考えているわけではありませんが。」

口に出してから不味いと思い直したんだろうか。途中で語気を落として弁解する。

「ははは。ま、今日の所は見逃しといてくれよ。」

誤魔化し笑いを向けると、仕方ありませんね、などと青年も苦笑で返す。これでかわいい女の子だったら見事なツンデレなんだがなぁ。残念ながらオレに男色趣味はないのです。

「ところで、君は騎士団の人?」

オレの質問に、ちびっ子イケメンははっと気付いた顔で居住まいを正した。

「名乗りが遅くなりました。私、ウルタナ・マクダネルと申します。ドゥービンの竪琴騎士団より、赤枝騎士団へ出向いております。」

「へぇー、そっか。よろしく。」

オレが右手を差し出すと、彼はキョトンとした顔で首を捻った。一瞬顔から大人びた緊張感が消え、子供っぽい素顔が覗いた。実に表情がころころ変わる子である。

「……どうかした?」

握手した後にもう一度首を傾げた青年騎士に問い掛けると、申し訳ないといいつつ苦笑した。

「いつも名乗りを聞いた相手からは、珍しいものでも見る様な目で見られておりましたので。『トゥアラン族の族長の娘が女だてらに騎士などと』とよく言われたものです。」

ですが、こちらにはフィオナ様もいらっしゃいますので、セタンタ様も慣れていらっしゃいましたか。などと納得顔の彼。もとい彼女。

「えー。……女の子?」

「……男の装束をしておりますが、歴とした女にございます。」

「……見事な男装ですね。」

「ええ……お褒めいただきありがとうございます。」

何だか急に気まずくなってしまった。