異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2009-11-28

「ありがとう、助かったよ。仕事中に邪魔して悪かったね。それじゃ、オレはこれで……」

「あ、お待ち下さい!」

礼を言ってその場を後にしようとしたら呼び止められた。咄嗟に手を伸ばしてオレの裾を掴むウルタナ。

「え、なに?」

「う、うわ! すみません、つい!」

慌てて手を放すその仕草が、そこだけ妙に女性っぽくて少しドキッとした。上気して赤くなった頬が急に女の子だと再認識させてくれるわけで、いわゆるギャップ萌えという奴ですな。

「別に気にしなくていいよ。ところで、何かあるんでしょ?」

オレがついニヤけながら尋ねると、ウルタナの顔色は慌てた様子からムッとした顔を経由して冷静な表情に戻った。

もの凄く顔に表情が出やすいが、それをコントロールすることもできる、という優秀なんだかそうじゃないんだか分からん子である。

「ミョイグネンはトリムの外れに屋敷を構えています。歩いて向かうと小半時も掛かりますので、よろしければ乗り物をご用意しますが、いかがでしょう。」

どうやら、俺が一人で出歩くことに不安を感じるのはこの城共通の対応らしい。まぁ、分からんでもないけど。オレ、何となく頼りなさそうに見えるみたいだし。

「馬車だよね、きっと。時間も手間も掛かるだろうし、わざわざ用意しなくてもいいよ。」

「それはご心配に及びません。船をすぐに出せますから。」

そう言ってしたり顔のウルタナは、間髪入れず近くにいる従者に船の手配を命じた。

「さほど掛からずに準備が整います。それまでエールでもお召し上がりになってお待ち下さい。こちらです。」

有無を言わさず案内の口上を述べられてしまうと、さすがに断れなくなってしまう。この辺の手際や押しの強さは大したもんである。交渉慣れしてる感じがするというか、段取り慣れしているというか。

「わかった。ならそれで頼むよ。手間を掛けるね。」


三角砦にも一応きちんとした来客応接間があるようで、四角いテーブルと籐椅子が並んだ応接セットに通された。椅子に腰掛けると間髪入れずに冷えたエールが出てくる。一口飲むと、ほどよく冷えた甘みと苦みのある液体がトロッと喉を下る。僅かに汗ばむくらいの気温だから、冷えたエールはことのほか旨く感じる。アルコール分もほとんど無いようで、飲んだ感じはシャンパンとビールの中間くらいに感じる。

「うん、冷えてて旨いな。ここって氷室でもあるの?」

一杯目を飲み干しつつオレが尋ねると、ウルタナは手ずから小樽から杯に注いでくれた。

「この砦の井戸はかなり深くから水を汲み上げているそうで、かなり冷たいのです。エールは赤枝の騎士も衛士達も日頃より好んで飲みますので、常時冷やしておいているのです。」

「あー、井戸水か。それで丁度いい具合に冷えてるのか。」

ありがとうと礼を言って杯を受け取る。確かに暑い時期には『とりあえずビール』的に飲みたくなるのは分かる気がする。

「それにしても。トリムとの間には街道があるんだし、陸から行った方がいいような気がしてたんだけど。川からの方が便がいいの?」

「ボアン川とトリム周辺の街並みは幾分離れておりますが、川から用水を引き込むためにいくつも堀割が切られておりますので、トリムとタラの間は川船で行った方が便がいいのです。」

「へぇー。その堀割はタラの町中にも?」

「ええ。街の東側に多いですが、運河と城の水堀を兼用しています。その運河の水門管理なども衛士隊の仕事になっております。」

そんな感じで杯を重ねて、3杯も飲んだあたりで船の準備が整ったと声が掛かった。