異世界日記 『第四部 見習い日記学舎編』 このページをアンテナに追加 RSSフィード

 ■本家サイト作者ブログはつせの世界メール

2009-11-29

三角砦から出て城壁沿いに降りてゆくと、比較的大きな船着き場へ出た。四方を頑丈な城壁に囲まれたその一角は、周囲の城壁から少し凹んだ位置取りになっており、手前側はL字に折れ曲がって強固な城門へと繋がっている。反対側、堀に面した城壁の中央は鉄格子の水門となっていた。それも二重の落とし格子で堀と仕切られている。

城壁の上からは長々と通廊を回って行かなければ下には降りられない仕組みで、城壁の上には眼下へ矢を撃ち下ろすための銃眼も設けられている。仮に水門が破られてもこの囲みの中で殺し間に囚われた敵は城への侵入を阻まれる仕掛けというわけだ。

こういうの、確か虎口っていうんだっけか。

その虎口の中にある船寄せに一艘の細長いボートが浮いていた。

長さは30フィート以上あるだろうか。片側5人の漕ぎ手が乗り、長い櫂を漕ぐ。その両脇には木の楯が立てかけられ、それが軍船であることを如実に表していた。

突き出した桟橋に接舷したその船からは、丁度数人の兵士が下りてくるところだった。革の兜と鎧を身につけ、剣や弓を携えている様子からして、恐らくは騎士団に属する兵士か衛士なのだろう。

「ウルタナ様! 例の盗人のヤサですが、もぬけの殻でした。逃げ足の早い奴ですぜ、あれは……」

そのうちの一人がウルタナに向かって呼びかけていたが、横にいるオレに気付いたのか首を傾げた。その一団の所へ向かうウルタナにオレもついていく。

「はあ~」

おれとウルタナが目の前に来ると、兵士や船乗り達は一様に人の顔をじろじろと見上げた。あいかわらず、どこへ行っても気分は客寄せパンダである。

「……ウルタナ様。」

代表格らしき40絡みのおっさんが口を開いた。

「漸く色気づいたと思ったら、また随分とでかいのを見つけてきましたね。矢除けの的にはいいかも知れませんがね。夜のお伴にはちとサイズが合わねえんじゃねえかと思いますが。」

「はっはっは!ちがいねえ!」

からかうような調子の言葉に、周囲の兵士達もゲラゲラと笑い声を上げた。口調や内容はアレだが、雰囲気に陰湿な所はなく、どうも単純に品のない連中ってだけのようである。

「その下種な口を閉じろ、ケルソン。その出来の悪い頭の中身をを多少はマシになるようにかき混ぜられたくなかったらな。」

冷え冷えとした表情で男どもを見据えるウルタナさん。その侮蔑の表情に、兵士達は一斉に怖い怖いとはやし立てた。だが、ウルタナはそれを意にも介さずに涼しい顔で言葉を続けた。

「体力の有り余っているお前達にもう一つ仕事をやろう。こちらの方を交易商人のミョイグネンの屋敷まで案内して貰いたい。今すぐに出ろ。」

このウルタナの命令にはすぐにぶぅぶぅと不満の声が上がった。

「あっしら、上りを終えて戻ったばかりなんですが。」

「そうか。なら次は下りで楽ができるな。よかったではないか。」

ウルタナは全く取り合わずに、ケルソンと呼んだ男にすぐさま準備を命じた。

「ではセタンタ様。この者達がご案内致します。本来であれば私がご同行すべきでしょうが、砦の留守居役を仰せつかっておりますので。」

「ああ、心配ないよ。むしろ手配してくれてありがとう。ウルタナさん。」

挨拶を交わしていると、ざわっと空気が響めいたのを感じた。

「ウルタナ様、その、すいやせんが。」

「なんだ。」

「いま、その。あっしの聞き違えでなければ今『セタンタ様』とか聞こえた気がするんですが。」

「そう言ったが。」

「な、なんだってー!」

オレの声に吃驚した表情で大仰に叫ぶ兵士達。反応しすぎである。

「もちろん知ってのように、セタンタ様は女神様のお弟子様であり、大族長の客人であり、遠くない将来にはエマ姫様の夫となられるお方だ。失礼の無いように。」

「な、なんだってー!!」

あ、二回目の驚きはオレの声ね。そりゃ驚くっちゅーねん。