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「セタンタ様、お水をどうぞ。」
「うん、ありがとう。」
渡された木のお椀から水を飲む。椀が新しいせいか、強い木の香りが移った水は、喉を下ると匂いだけがふっと鼻へ抜けていく。その香りを嗅いで、オレは漸く自分が少し酔っていることを自覚した。
「ウルタナさん、悪いね。どうやら珍しく酔っぱらったみたいだ。」
通された部屋でソファに座ると、もう一口水を飲む。うん。実に新鮮な香りだ。んで、喉の熱さが、頬の火照りが、さらには脳の幸福感が、酔っぱらっているという自覚を促した。
「誠に不躾ですが。セタンタ様が酔われるのはさほど珍しくないと、聴いております。」
「おかしいなぁ。オレ、いつも気をつけてるんだけど。」
「では、より更にお気を付け下さい。」
「……ん。わかったよ。」
生真面目に言うウルタナさんに、自分ではにこやかなつもりの笑顔で返す。ウルタナさんは、どうもお気に召さなかったようで、視線を逸らして、んっ、と咳払いした。
暫しの沈黙があって、彼女は姿勢を正しこちらを真っ直ぐに見た。
「お伺いしてもよろしいですか。」
「なんだろう。」
ウルタナさんの改まった様子に、なるべく真面目に返したつもりだったが、脳がふやけてるせいかちょっと顔がニヤついてしまったかもしれない。
「セタンタ様は、いったい何人妻を迎えるご予定なのですか。」
ブーーー!!
丁度口に含んだ水を噴いてしまった。
「だ、大丈夫ですかセタンタ様。」
「あ、ああ。だいじょぶ、ゲホッ!ゲホゲホッ!」
あまりに思わぬタイミングに思わぬ質問が来たので、気管に水が入って咳き込むわ、頭の中は真っ白になるわ。手拭いを貰って口やら胸元やらを拭う。いや、久しぶりに咽せたわ。おかげで酔いが吹っ飛んだ。
「申し訳ありません。変なことをお聞きしまして。」
「そうだよ。ビックリしたよ。」
半笑いしながら聞き返さずには居られない。
「なんでそんな質問が出てくるのか、そこが聴きたいんだけど。」
「いえ、その。」
言葉に詰まったあと、ウルタナさんはまた生真面目な顔に戻って言った。
「セタンタ様はエマ姫様の婚約者ですが、他にもホーサ様やリャナン・シー様とも言い交わしているとお聞きしました。また、他にも思いを寄せる女性は枚挙に暇がないとの噂。であれば、セタンタ様は大族長様の後を受けてエリンの王となられるのでしょうし、さぞや多くの妻を迎えられるのであろうと。」
「いやいやいやいや。待て待て待て待て。」
真剣な顔で首を傾げる小柄な騎士に、思わずツッコミを入れる。
「いろいろ誤解があるようですが。」
手拭いで汗をふきつつ弁解する。
「まず、オレとエマ姫というかフィオナは婚約とかしてないよ。」
「そうなんですか? 大変仲がおよろしいというお話ですが。」
「まぁ、確かに仲はいいけどね。あくまで兄妹みたいなもんだから。」
「はぁ。」
全く信じてない生返事が返ってきましたよ。
「それと、ホーサもフィオナと同じ感じで兄妹扱いだし、リャナン・シーさんには全く相手にされてないから。」
「それ以外にも、幼い子から年嵩の人妻まで、大変広く愛情を注いでおられるとか。」
「幼い子ってなんだよ! ケルベロスとかシグルーンなら完全な濡れ衣だぞ! とにかく! オレは今のところ女っ気ないの! むしろ我慢してるの!」
と、叫んでから取り乱していることに気付いた。いかんいかん。
「ていうか、それ聴いてどうしようと思ったんだよ。」
頭を抱えてそう聞くと、ウルタナさんはなにやら微妙な表情をしていた。
「てっきり、私もセタンタ様の側妾にならねばならないのかと。早とちりしてしまいました。」
「なんでだよっ!」
そして、なんで微妙に悔しそうなの?